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   裁判ドキュメント 準備書面4
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平成18年(行ウ)第124号 健康保険受給権請求事件
原 告 清郷 伸人
被 告 国



                 準 備 書 面 (4)

                              平成19年9月5日

東京地方裁判所民事第3部A係 御中



                          原 告 清郷 伸人


 8月29日に原告提訴の訴訟事件は弁論を終結し、結審となりましたが、原告は当日の第4回弁論に対して準備書面(4)を提出いたします。すでに提出しました原告の準備書面(3)も不十分と思い至り、結審後の書面提出となりました。ご一読いただきたくお願い申し上げます。

1.本準備書面の骨子
 被告は準備書面(3)と第四回弁論において、医療は患者に対する一連の浸襲行為であり、その中に保険外医療が加わることにより保険医療と保険外医療を併用する(混合診療という)第三の医療行為(形態)が生まれるとしました。そして保険外医療が含まれるこの医療行為には保険給付は全面的に停止されるという法解釈を示しました。さらにこの解釈は保険外医療が保険医療に及ぼす悪影響を考慮した立法精神に基づくとしました。
 原告は準備書面(3)をこの立法精神論への反論に重点を置いて述べましたが、本準備書面(4)においては、本訴訟が原告の保険診療と保険外診療を併用できる地位の確認請求事件であることを鑑み、混合診療禁止を定めたとされる健康保険法に対する原告の法解釈を述べて、この制度の法的根拠について反論いたします。

2.被告の法解釈への反論
 被告が混合診療禁止の法的根拠を示す条文としている健保法第63条をいくら精読しても、療養の給付される保険医療と給付されない評価療養や選定療養と称する保険外医療の2種類の医療についての規定しか読むことはできません。また第86条にはその保険外医療の併用については、保険外併用療養費(旧健保法の特定療養費)を支給すると明記してあるだけで、評価療養でも選定療養でもない保険外医療(自由診療)と保険医療の併用について規定した条文は一切見あたりません。被告のいうような混合診療にあたる第三の医療があって、これには保険給付は一切ないという被告の主張を裏付ける条文は健保法にも療担規則にもないというのが唯一の正確な法解釈と思います。
 それは平成元年、東京地裁が「混合診療禁止について法及び療担規則には明文の規定はない」と判決文に示したとおりであります。仮に被告が準備書面(3)で主張するように、保険医療に悪影響を及ぼすから保険外医療の併用には保険は給付されないという論理が成立するとしても、この立法精神を具体化する明文規定はどこにもありません。評価療養や選定療養に対して保険外併用療養費を支給するという規定条文のある健保法の反対解釈で、混合診療禁止は条文がなくても規定できているという被告の主張は、拡大解釈というより逸脱解釈というほかありません。
また療担規則第18条には、保険医は特殊療法や新しい療法等については厚生労働大臣の定めるもののほか行ってはならないと記されていますが、なんらかの理由でやむを得ず保険医が保険外医療を行った場合あるいは保険医でない医師が保険外医療を行った場合に、併用された保険医療への保険給付が停止されるとはどこにも記されていません。
したがって法による明確な規定が確認できない以上、原告の保険医療と保険外医療の併用(混合診療)が可能という地位は確立されていると考えるほかないと思われます。

3.反論に基づく原告の主張
以下は繰り返しになりますが、原告の法解釈に基づく主張です。
本来、被保険者は保険診療には支払った保険料の対価として保険給付を受ける権利があります。末期がんなどで保険外併用療養費の対象として定められたもの以外の保険外医療を受けた場合は自由診療ですから法的には医療機関と患者の私的契約のはずですが、これには健保法の規定で保険医療機関にその支払い請求権が認められておりません。そこで保険医が緊急処置として病院の負担で未承認抗がん剤を処方することは広く行われています。あるいは患者が他の病院で保険外治療を受けることもよくあります。現在はそれらすべてが混合診療となって治療の全期間にわたって保険給付がなくなります。
それは患者としては本来備わっているはずの保険診療を受ける権利を失い、被保険者としては強制的に徴収された保険料の当然の対価すなわち財産権を失うことであります。また法の下の平等をうたった平等権を失うことでもあります。憲法によれば国民の権利剥奪には条文上の明確な規定が必要ですが、法や規則にはすでに述べましたように混合診療によって権利を剥奪する内容の規定はありません。それを反対解釈で可能とするような乱暴な理屈の法解釈はおよそ法治国家といえないのではないでしょうか。
また医療機関にとっては、例えばあるがん患者が数ヶ月後あるいは数年後に他病院で未承認の抗がん剤や高度先進治療を受けた場合、混合診療となって給付された保険の返還が、遡って正しく保険医療を行った病院に命じられることになります。健保法や療担規則はなんの落ち度もない保険病院にこのような処置を行うことを規定しているのでしょうか。
何よりも確立された治療法による保険診療を継続することの利益は、すべての患者に保障されているはずであり、そのような利益を享受しつつも、さらに完全に自らの負担によって末期がん等に効果的である蓋然性もある追加的な治療法や投薬を行いたいと願うことは、通常このような立場に置かれた患者であれば、誰もが望むことではないでしょうか。わらにもすがる気持ちで延命を図ろうとする必死の選択に対して、経済的な困窮をあえて強いるような、保険診療部分まで含めた全額自己負担を命じなければならない合理的必然性があるのでしょうか。
日本の法は、憲法に照らして平等にすべての国民に開かれているはずであり、弱い立場の者をさらなる窮地に追い込むことなく、法的な権利利益を保障するために存在しているのだと理解しています。
裁判官各位の英断を期待申し上げる次第です。